「アグリシステム研究会」 伊藤専務 講演
アグリシステム創立25周年研究会
アグリシステム株式会社 専務 伊藤英拓、講演
「北海道小麦を世界のブランドへ」
~子どもたちの未来を支える販売戦略~
アグリシステムがどのように考え、皆さんとどういう取り組みをしたいのかということについてお話したいと思います。
全国の小麦需要量
総需要量 約588万トン(H24)
国内産 81万トン
国内産と外国産の割合
国内産17% : 外国産83%
国内産小麦の生産量(約80万トン)の割合
北海道外産 39%
北海道産(十勝以外) 36%
北海道十勝産 25%。
今年、来年で急増!
2012年までは3万トン前後で推移していました。今年度は10万トン程度、来年度は大幅に増えて、20万トン程度になる見込みです。パン用小麦の需要量は外国産、国内産合わせて130万トン、そのうち国産小麦は3万トン(2.3%)でしたが、来年は1/6が国産小麦に変って行きます。
品種の多様化 ブレンドで無限の可能性
これまで「ハルユタカ」「春よ恋」「ホクシン」「キタノカオリ」という品種がありましたが、さらに昨年から本格的に作付された「きたほな
み」「はるきらり」「ゆめちから」が加わりました。これらの品種の多様化により国産小麦粉のパンの可能性が大きく変化してきています。「ゆめちから」の誕生によって国産小麦粉の製パン性が飛躍的に上がりました。
実は「ゆめちから」や「はるきらり」「きたほなみ」は、既存品種に比べ「味がない」という評価もいただいていました。しかし、既存品種の「キタノカオリ」や「春よ恋」のような風味の良い美味しい小麦粉をブレンドすることにより、製パン性が良くて、しかも味も良いパンが作れるようになります。
これから、用途に応じて品種の組合せやブレンドの比率を変えることにより、あらゆる小麦粉が作れるようになり、製パン性や味の面で外国産に負けない小麦粉が必ず作れると思っています。
「ゆめちから」の可能性
「世界品質へのキーマン」
1.作付の増加により安定供給が可能になる。
2.中力品種とブレンドできる。
3.30~50%のブレンド。
製パン方法にもよりますが、「ゆめちから」を50%以上入れると弾性が強すぎて、ガチガチのパンになりやすい性質があります。
4.高い製パン性と耐性。
5.ブレンドによってあらゆる用途に適応可能。
6.小麦粉以外の粉とのブレンドによる可能性
弊社が非常に注目していることの一つに小麦粉以外の粉とのブレンドの可能性があります。全粒粉はブレンドすると製パン性が落ちますが「ゆめちから」があれば、これをカバーしてくれます。また、人参、南瓜などの野菜粉を入れても面白いと思っています。
油脂の多く入るリッチなパンや副素材をブレンドするようなパンは素材を加えるほど製パン性が落ちてしまいます。今までの国産麦ではこの問題を解決することは難しかったのですが「ゆめちから」が解決します。機能性成分を含んでいる野菜を粉にしてブレンドしてパンを作っても面白いと思います。
「ゆめちから」は国産小麦が世界品質となるためのキーマンだと思います。
北海道小麦、世界ブランドへの道 ①
農家さんとパン屋さんをつなぐ。
農家さんとパン屋さんをつなぐ取り組み その1
具体的な取り組みとして・・・
全国のパン屋さんに小麦畑に来てもらいました。そして生産者さんの話を直接聞いてもらいました。すると、大きな変化が現れました。
初めはシェフだけが来られて、生産者さんと直接話をして感動されて帰られました。翌年今度は、お店のスタッフを連れて来られました。スタッフの方々は生産者さんの想いを聞いて、「小麦は生産者の想いが込められ、苦労して作られているものだ」ということを理解されました。
お店に戻った時、「今まではただ粉が届いて、工業製品じゃないけど、どんな風に作られているかも知らずにミキサーにただ入れていた」のが、「生産者さんと話したことで、粉袋にスコップを入れるたびに生産者さんの顔を思い浮かべながらパンを作るようになった」という声をいただきました。
全国のパン屋さんからどんどん十勝の小麦畑に来ていただきたいと思っています。
農家さんとパン屋さんをつなぐ取り組み その2
1年前、十勝の小麦協議会、「麦笑の会」の皆さんに東京に行ってもらいました。自分たちの小麦が誰に、どのように使われ、どんなものになっているのかを見ていただきたかったからです。実際に、北海道の小麦畑を見に来て下さった、パン屋さんを中心に回りました。
その時、お店の前に「麦笑の会の方々が来ますよ!」という案内を掲示されていたり、パンの前に「うちのパンは、こういう生産者さんが作った小麦を、こういう会社が製粉してできた小麦粉を使ってこんなパンになっています」というPOPが置いてある店がありました。
1商品で1日70個売れたら「売れ筋商品」と言われているパン屋さんで、「麦笑の会」の方々の粉を使ったパンは100個以上コンスタントに売れているといううれしいお話も聞かせていただきました。
農家さんとパン屋さんをつなぐ新しい取り組みとして、本日お越しいただいている米山シェフと農家さんが参加して、来月パンセミナーを開催する予定になっています。大阪で開催されるこのセミナーはおそらく業界でも初の試みです。
米山シェフには北海道産小麦の可能性を充分に引き出すようなパン講習会を開催していただきます。小麦だけではなく、北海道産のじゃがいもや長芋などを使ったパンも作っていただきます。また、農家さんからは生産者がどのような想いで小麦を作っているのかというお話をしていただきます。
北海道小麦、世界ブランドへの道 ②
品質を徹底追及する。
製粉のこだわり
アグリシステムでは「石臼挽き」と「麦の風方式」(昔ながらの粉砕方式)の2通りの製粉方法を採用しています。なぜ一般的なロール製粉ではないのか?そのポイントは3つあります。
ポイント1 低温製粉
一つは低温で製粉できるということです。ロール製粉は一般的に60度近くまで温度が上がってしまうと言われています。小麦は60度を超えると品質が劣化してしまうと言われていますが、麦の風工房の石臼挽きは50度前後で製粉できます。低温で操作することによって小麦の風味、味を損なうことなく製粉することができます。
ポイント2 表皮をピーリング
一般的な全粒粉はエグミ、苦味、ふすま臭が強くて苦手な方が多いようですが、アグリシステムの全粒粉はこのようなクセがありません。その秘密は小麦の表皮の部分をピーリングしているからです。
実は小麦のふすま部分は大きく分けて4層になっていてクセやエグミを出してしまうのが一番外側の表皮とわかりました。表皮は他の層と比べるとミネラルなどの栄養価は多くありません。弊社では最初に表皮の部分を薄くピーリングする工程をいれています。そのあと栄養価や小麦の風味の強いアリューロン層という部分を中心に挽いています。
このような特別な工程を加えることにより、一般的な全粒粉とは違う特徴を出しています。
ポイント3 微粒ふすま
小麦のふすまを微粒粉砕することで製パン性を高めたり、水を加えた時の離水を抑えたりすることができます。
品質を裏付ける取り組み
ポイント1 契約栽培小麦100%
ポイント2 徹底したトレーサビリティ
麦の風工房の商品にはQRコードが付いていて、ロットナンバーを入力すると栽培履歴がわかるようになっています。個人情報保護などの理由から生産者個人名はIDナンバーでの公開となりますが、全ての商品が誰の原料から作られているのかがわかるシステムになっています。さらにどんな資材を使ったか、何回使用したか、という栽培履歴もわかるようになっています。
この取り組みの深さや想いを、まだ充分にお客様に伝えきれていません。生産者さんたちとの取り組みを今まで以上にしっかりとお客様に伝えて行きたいと思っています。
ポイント3 低温倉庫保管
豆や小麦は常温で保管されることが当然とされてきましたが、低温保管することで収穫した時と変わらない品質が保たれます。弊社の小麦粉製品は全て低温倉庫で保管しており、品質の差別化が図れています。
ブレンドのこだわり
ポイント1 三品種ブレンド設計
「ゆめちから」「きたほなみ」の2種を使ったブレンド小麦が大手製粉メーカーをはじめ、多くのメーカーで販売されている中、アグリシステムはそこに「キタノカオリ」をブレンドしています。当初からのこのような取り組みにより一定の評価をいただいております。
ポイント2 ロット別成分分析
それぞれのロットごとに水分、タンパク、灰分はもちろんアミロやフォーリングナンバー(小麦粉の粘度)を測定しています。原料ロット別に分析したデータにもとづいて製品化することで、国産麦でもより安定した製品にしていくことができます。
ポイント3 必要数量契約栽培
一般的には小麦は農協、ホクレン、全農を通って入札にかけられ、製粉会社では去年の実績に応じた数量が使用されます。弊社ではお客様のご要望に応じて、生産者さんにお願いして必要な品種を必要な数量、契約栽培します。今後も、こういう強みを生かして行きたいと思っています。
北海道小麦、世界ブランドへの道 ③
トップシェフたちとの取り組みと共同製品開発。
シニフィアンシニフィエの志賀勝栄シェフ監修
「スム・レラT70」
フランス産小麦に負けないようなバゲット用粉を十勝産小麦で作ろうという思いから作られた粉です。フランスの粉は赤道を2回通って来るため品質が劣化してしまいます。「それならば、せっかく十勝にいい小麦と石臼があるのだから、フランスの小麦粉に負けない粉を作ろう」という思いから出来たのが、この「スム・レラ」という粉です。
十勝が誇るブーランジェリー、はるこまベーカリーの
新品種の「はるきらり」「きたほなみ」「キタノカオリ」の3品種の配合を設計して、十勝産小麦で作れるフランパン用粉(ハード系パン)のベースとなるものを作っていただきました。こちらの商品も関東で勢いよく広がっています。ちなみに「モンスティル」とはフランス語で"俺流"という意味です。
北海道小麦、世界ブランドへの道 ④
お互いの信頼と責任と技術力 生産者限定小麦粉!
生産者限定の小麦粉をこれからどんどん広めていきたいと思っています。農家さんとの信頼、パン屋さんの技術力、その間にある責任、顔の見える小麦だから半端なものはつくれない!もっと良い小麦を作りたい!と農家さんは言ってくれます。そういう責任をもって作った小麦を受け取ったパン屋さんはもっと美味しいパンを作りたいと言ってくれます。こういうお互いの信頼関係が「本物の美味しさ」という付加価値となり世の中にどんどん広がって行ってほしいと思います。
製品のこだわり
弊社の一般の消費者向け製品の一部にも生産者限定小麦粉を使用しています。
北海道小麦、世界ブランドへの道 ⑤
「低コスト×高品質×環境保全農業」へ
今の農業は農薬や化学肥料を多投し、収量を多くとる手法が主です。また地下水の汚染も問題となっております。こういった状況を少しずつ変えて行きたいと思っています。
昨日の講演にもあったように、コストをとにかく減らす、土作りをしっかりすることで品質を上げる、それが環境保全の農業につながります。このような農業モデルを十勝でどんどん広げて行ければと思っています。
土づくりのプロフェッショナル「フィルドマン」
アグリシステムにはフィルドマンという土作りのプロフェッショナルがいます。彼らが生産者の皆さんの土作りに協力しますので、これからもよろしくお願いします。
小麦協議会「麦笑の会」青空講習会
毎年十勝で青空講習会を行っています。より良い小麦を作るために、たくさんの生産者さんとフィルドマンが畑に集まり、意見を交わします。自分たちが育てた小麦で作ったパンを試食しながら意見交換をしたりすることもあります。
今年の1月にも宿泊研修会を開催しました。一晩泊まって研究会や会合を行うことにより取り組みに対する考えや信頼関係も深まります、良い経験になっていると感じています。
「美味しいから使っている」
シェフの声 その1
「オーガニックキタノカオリT85を使用していますが、なぜオーガニックを使っているかというと、農薬、化学肥料を使っていない安心安全な小麦だからという理由だけではなく、この小麦が今まで使った小麦の中で、最も美味しかったからです」
シェフの声 その2
「以前はフランスのオーガニックの小麦を使用していましたが、何か違うと感じていました。十勝にオーガニックのよい粉があると聞いて、使い始めました。以前は自家製粉を行なっていましたが、オーガニックキタノカオリT110は自家製粉でも出せない味があり、今後も使い続けたいと思っています」
美味しい小麦を作るには『よい土作り』が必要
今回の研究会を通じてあらためてこのことを確信しました。
子どもたちの未来を支える販売戦略 ①
「とかちフェア」
「とかちフェア」などの催しものを通じて、十勝の農産物やチーズ、ワインなどと一緒に情報発信して行きたいと思います。
子どもたちの未来を支える販売戦略 ②
一般消費者向け製品開発
一般消費者向け製品開発を行って、一般消費者にも十勝産小麦の良さをどんどん広めて行きます。「ゆめちから」をブレンドしたパン用小麦粉「北のパン職人」は全国のイオン200店舗で採用されています。
子どもたちの未来を支える販売戦略 ③
「安心・安全を追求」
1.ポストハーベストフリー。
2.トランス脂肪酸フリー。
3.イーストフード、乳化剤、臭素酸カリウムフリー。
4.全粒粉普及(ミネラル)。
5.手作り&無添加フィリングの推進。
子どもたちの未来を支える販売戦略 ④
「アグリシステムのビジョン」
1.糖尿病、ガンをはじめとする現代病の予防
糖尿病、ガンをはじめとする現代病を予防するような製品を開発していきたい。
機能性粉の開発(菊芋、よもぎ、野菜など)。
2.日本人のミネラル不足を解消!
ガン・糖尿病・成人病・うつ病などの原因の一つはミネラル不足だと考えています。ミネラルがたっぷり含まれた全粒粉などの商品を普及することで日本人のミネラル不足を解消して行きたいと思います。
特別栽培・有機栽培の農産物にミネラル分が多いということが証明されています。特別栽培・有機栽培ということでなくても、土作りをしっかりすることで、ミネラルがしっかり含まれた農産物を作り、普及させて行きたいと思います。
3.世界一美味しい小麦粉を創る!
・ 高タンパクにこだわらない。
今までの小麦はタンパク含有量を上げて収量を上げる栽培法でしたが、土づくりをしっかり行えば、高タンパクにしなくても収量が上がったという実績があります。パンの美味しさというのはタンパクではなく、でんぷん質の方にあります。高タンパクを目指さない小麦を作ることででんぷんの質を上げることができます。このことが美味しいパンにつながります。
・ 高ミネラルにこだわる。
土づくりをしっかり行うことでミネラル成分含量が上がり、美味しい小麦ができます。
・ エグ味、雑味をとことん減らす。
「化学肥料をおさえた小麦はエグ味、雑味が少ない」というオーガニック小麦を使用しているシェフの声があります。上品であっさりした特徴があると言われます。こう言った所にとことんこだわって北海道産小麦を世界一の小麦にしていきたいと思っています。
以上を実現するためにお願いです。
私たちと共に世界一の土作りを目指しましょう。世界一の土から世界一美味しい小麦、美味しい小麦粉を作り、そしてパン屋さんたちには世界一美味しいパンを作っていただきたいと思っています。
今回この宿泊研修でいろいろな声を聞いて、みなさんの努力やご苦労やさまざまな想いがあることを実感しました。
北海道の小麦をブランド化して世界のブランドにして行きたいと思っておりますので、是非ともご協力下さい。皆さんとのおつきあいを通じてアグリシステムも成長し、挑戦を続け、日本に貢献できる企業になっていきたいと思っていますのでこれからもご指導とご協力の程よろしくお願い致します。