「アグリシステム研究会」 社長 講演
アグリシステム創業25周年記念「アグリシステム研究会」
アグリシステム株式会社社長 伊藤英信、挨拶
アグリシステムの25年間
当初からのスローガンは、一つは「農業の生産システム、流通システム、情報システム」をそなえた会社になるということです。もう一つは「生きた土、健全な作物、人間の健康」という理念を推進し、実践することです。
農業の流通システムは大きく前進させることができましたが、有機農業の推進はまだ、あまりうまく行っていません。今後25年の間に北海道をアジアのオーガニックセンターにしてもらいたいと思います。
実感として考えられないかもしれませんが、本日の研究会の講師の方々の話を聞けば、それほど高いハードルではないということが理解いただけると思います。
アグリシステムでも有機農場を運営しています。まだ経験不足でうまく行っていませんが、ちょっと光が見えてきました。プロの農業家が取り組めば必ず成功するのではないでしょうか。
北海道産小麦の今後
先日、2014年産の小麦の入札が行われましたがパン用小麦は大暴落となりました。来年の今頃、北海道では、道産小麦粉の価格が輸入小麦粉を大幅に下回ると考えられます。道外では運賃差のため道産小麦粉と輸入小麦粉がほぼ同価格で販売されると考えられます。
北海道ではいままで、道産パン用小麦粉の消費拡大に取り組んできませんでした。「ゆめちから」「はるきらり」といった優良品種が放置されたままになっていたところに大増産が起こりました。
今後、北海道で消費される小麦粉は北海道産に急速に置き換って行くでしょう。
「ゆめちから」の可能性
道産小麦を取りまく状況は決して悲観すべきものではありません。アグリシステムでは「ゆめちからブレンド」を他社に先駆けて販売しています。輸入小麦と比べてもおいしく、あのモチモチ感は何ともいえません。使用していただいているパン屋さんからも非常に良い評価をいただいています。
道産小麦粉価格はこの2~3年は安値圏に低迷するかもしれませんが、その後は正常化して行くと考えられます。
食品を初めて工業化したと言われる製粉業界にとって、「ゆめちから」は暴れ馬のようなもので、非常に扱いにくい品種だと思いますが、「ゆめちから」のパンは世界的に見ても例がないような新しい感覚のパンです。フランスパン、ドイツパンと並んで、北海道パンが世界的に認められる時代が来ると思います。北海道小麦の可能性は無限です。
アグリシステムはまだ一寸法師のような小さな会社ですが、北海道農産物の販売の先頭に立ち、まだ誰も知らない貴重な情報が集まってくるような会社にしたいと思います。また、北海道の農業をあるべき姿にリードして行く会社になりたいと思います。
アグリシステム株式会社社長伊藤英信、基調講演
農業 : 未来から見た変革
TPP・グローバル化と北海道農業及び社会の変化
「変わらないと家族も守れない!」
いつか、誰かが解決してくれる。
世界でも最先端の経営理論といわれるマサチューセッツ工科大学のオットー・シャーマー博士の「U理論」からの引用ですが、農業を考えるとき重要なことは、過去の事例や偏見にとらわれることなく、未来から現実を創造するということです。我々は未来から学ばなければなりません。
現在、多くの人が「いつか、誰かが解決してくれる」と思っている難題が山積しています。その難題とは次のようなものです。
1.巨大な寄生虫が国家財政を食い荒らす。
巨大な寄生虫とは利権を持った組織とそれに結びついた官僚のことです。
2.農業と食料システムはジャンクフードを生んだだけ。
各国は農業と食料システムのためにばく大な費用を投入してきましたが、問
題解決には至らず、栄養バランスを欠いた高カロリー、低価格食品、ジャンク
フードの氾濫を招きました。
3.35兆円の医療費をかけても、対症療法のみで、病気を治せない医療。
病院の経営はおもにがん治療と透析で成り立っていると言われます。糖尿
病などは病院では治りません。生活習慣をあらためて自分の力で治します。
4.大企業のための教育は崩壊。
教育に関しては、いじめ、自殺、多動性障害、アスペルガー、発達障害等多くの問題があります。これらの原因の一つとしてミネラルの乏しい、栄養バランスの悪い食事が考えられます。
5.環境破壊・大規模な自然災害。
我々は大規模な環境破壊や自然災害の危険性ととなり合せに生活してい
ます。
6.99%の貧困。
アメリカでは1%の富裕層がますます富み、残りの99%は貧困化していま
す。
以上のような、多くの人が「いつか、誰かが解決してくれる」と思っている問題は、このままでは誰も解決してくれません。
TPPとグローバル利権。
1.国家がグローバル企業に買収されている。
遺伝子組換えで有名な会社モンサントとアメリカ政府の間には「回転ドア」が
存在し、人事交流が行なわれています。今や国家はこのようなグローバル企業
に買収されており、アメリカ大統領もグローバル企業の支援なしには当選でき
ないと言われています。
2.古い利権からグローバル利権へ。
アメリカは農協から共済事業を取り上げたいと思っています。大企業は農業に参入して農家を支配しようとしています。
3.ジャンクフードを食べて長時間労働。
その結果、労働者は栄養バランスを欠いた、高カロリー・低価格食品であるジャンクフードを食べて長時間労働に従事することになります。これでは、こころとからだの病がますます広がって行きます。
4.効用に科学的根拠もない新薬を使わせる。
アメリカは国民皆保険をつぶそうとしているのではなく、合成新薬を売り付けようとしています。アメリカでは効用に科学的根拠がない薬がどんどん認可されており、訴訟が起こっています。たとえば、血圧降下剤は単に血管をふくらませるだけなので、一度飲むと飲み続けなければなりません。それならば、黒豆の煮汁を飲んだ方がよいのではないかと私は思います。
5.遺伝子組み換え作物 ― 「世界が食べられなくなる日」
「世界が食べられなくなる日」という映画が公開されていますが、遺伝子組み換え作物、化学物質、放射能は免疫系に作用するのですべて病気の原因になるといわれています。
6.農家・中小企業が大企業の下請けへ。
北海道でも優良な中小企業が大企業の傘下に入るという動きが出てきています。いくら優良な中小企業でも経営が成り立たなくなってきています。アメリカの例を見ても、農家も大企業の傘下に入ったり、下請けになったりするようになってきています。こういう構図が今後、10~20年の間に大きな流れになります。
以上がTPPの本質です。TPPはグローバル企業のためにあり、その中で古い利権と新しい利権の争いが起こります。
農家はグローバル企業の餌食。
1.超高コスト ― EUの5倍。
農家のコストの大部分はグローバル企業に吸い上げられています。
2.化学肥料農薬の使用量は世界一。
3.土壌病害 ― 土壌の劣化、富栄養化。
4.肥料の高騰、リン酸肥料の枯渇。
5.燃料の高騰。
6.農業従事者の高齢化。
7.過剰な機械装備。
化学物質による人体実験。
1.化学物質(農薬、化学肥料、添加物、合成着色料)を本格的に使いだしてから
60年。
化学物質が人体にどのような影響をあたえるのかまだわかっていません。これから徐々にその結果が現れてきます。
2.中国政府の発表で250以上の「ガンの村」。
短期間で集中的に化学物質にさらされた結果、250以上の「ガンの村」ができたと中国政府が発表しています。
3.アメリカでは10%の人が化学物質過敏症。
4.文科省の発表では子供の30%がアレルギー。
5.放射能 ― 福島の子どもの甲状腺ガンはチェルノブイリを超えた。
福島の子ども9千人に1人が甲状腺がんになっています。これはチェルノブイリの1万人に1人というデータを超えています。
6.電磁波過敏症 ― ハイブリッド車、IH調理器、携帯電話。
電磁波の人体に対する影響はまだよくわかっていませんが、子どもが携帯電話を多用すると悪影響が出ることはわかっています。
7.シックハウス
シックハウスの悪影響を受けている人がいますが、因果関係はまだはっきりしていません。
北海道農業はこんなに有利。
1.世界は水の奪い合い ― 小麦1トンの生産に1000トンの水が必要。
北海道では本質的に水には困りません。アメリカでは灌漑農業が多いのですが地下水の枯渇で、作付が4割くらい減っているといわれます。
2.寒暖の差があって美味しい作物が作れる。
3.育種体制が整っている。
どんどん新しい品種が出てきています。アグリシステムでも優良品種はどんどん取り入れていきたいと考えています。
4.世界と比較しても農家の能力が高い。
5.貯蔵流通体制が整っている。
6.冬の観光に可能性がある。 ― アジアには優良なスキー場は少ない。
北海道はアジアの観光地として見直されるでしょう。
7.北海道農業はアジアでは比較的大規模経営である。
メチャ儲かるコスト50%削減への道。
北海道農業はとんでもない高コストです。これは農家に原因があるのではなく
行政とそれを取りまく環境に原因があります。今後は、一から見直して、コストを徹
底的に下げていく必要があります。そのためには以下の対策が考えられます。
1.よい土をつくる。
2.土壌病害を克服する。
3.化学肥料、農薬を3分の1に減らす。
4.プラウを捨てる。 ― 燃料費の節約。
ヨーロッパではプラウの使用は少なくなってきているようですが、日本ではまだまだ「プラウだのみ」になっています。これは燃料費の節約にもつながります。
5.農業機械を半分にする。
6.協同組合を作る。
今の農協のような組織ではなく、本当に志しを同じくする農家が集まって協同組合を作り、協力できるところは協力して、グローバル化に対抗すべきだと思います。
7.食料を自給する。 ― みそ、醤油、漬物、酒。
自分のために加工品を作ることが6次産業化にもつながります。
8.1.5次産業 ― 麦、豆の自家乾燥、野菜貯蔵。
農家が自分の力でできることはやった方がよいと思います。
9.有機栽培、特別栽培で6次産業化。
有機栽培、特別栽培などこだわりのある農産物で6次産業化を目指すべきだ
と思います。
10.一村一品ならぬ一農家一品を目指す。
(栗、菊芋、りんご、ぶどう、漬物、ジャム)
北海道では6次産業化を目指して、多種多様な農産物が作られるようになる
と思います。
消費者の健康を考える。
1.スーパーで売られているパンは添加物だらけ。
2.ミネラル不足の食品の氾濫。
3.100ベクレルの福島産米が流通している。
4.人工の油脂であるトランス脂肪酸 ― ショートニング、マーガリン
5.身近な食品に異性化糖。
遺伝子組換えのとうもろこしから作られたコーンスターチが原料です。
6.ポストハーベスト農薬。
輸入小麦から国産小麦に変えたら、アレルギーが治った。国産小麦でも治らない人は有機小麦に変えたら、治ったという話を聞いています。
7.コンビニの健康宣言。
いままで、健康とは無縁と思われていたコンビニが経営戦略の中心に「健康」を置くようになりました。有機農産物を扱う会社を傘下に入れ、自営農場も土づくりからはじめるようになりました。こういう動きに農家が目を向けなければならない時代が来たと思います。
有機農業への道
1.醗酵堆肥をつくる。
悪臭を放つ堆肥を土に入れてはいけません。土は人間の腸と同じようなもので、腐敗したものを入れると障害が出ます。腐った牛乳と醗酵してできたヨーグルトほどの差があります。
2.省耕起を実践する。 ― 5㎝以上耕さない。
3.緑肥と雑草で土を作る。
除草の問題は残りますが、有機農業のハードルはそれほど高くはありません。
ブランド化への道
1.美味しい農産物を選別貯蔵。
有機栽培や特別栽培の美味しい農産物を選別貯蔵し、差別化してブランド化したいと思います。
2.小豆(あんこ)をアジアのチョコレートに。
チョコレートのメーカーにこだわる人はいますが、あんこのメーカーにこだわる人はいません。あんこの世界が戦後、ごまかしから入ったからです。小豆(あんこ)を、こういう状況からアジアのチョコレートのような存在にしたいと思います。
3.ボルドーのエリモショウズ、ブルゴーニュのゆめむらさき。
ボルドーのワインはエリモショウズに、ブルゴーニュのワインはゆめむらさきにたとえられるという話を聞いたことがあります。もっと品質の違いを追求することによって小豆をブランド化することができるのではないかと思います。
4.北海道小麦を世界のブランドにする。
5.サラダ豆のように大豆、黒豆、金時、小豆の利用法を考える。
6.北海道ワインの可能性は大きい。
バイオダイナミック農法
一部でオカルト農業とも言われていますが・・・
1.1924年にシュタイナーが農業講座で提唱した農法。
2.世界一有名なワイン、ロマネコンティはバイオダイナミック農法で作られる。
3.イギリスのチャールズ皇太子の有機農場はバイオダイナミック農法である。
4.世界のワインコンクールでバイオダイナミック(ビオデナミ)ワインが続々と入賞
している。
5.フランスのブルゴーニュ地方をすべてオーガニックにしようという動きがある。
6.オーストラリアでは飛行機でバイオダイナミック調剤を撒いている。
中国ではすでに150か所のバイオダイナミック農場があるそうです。
バイオダイナミック農法は、今すぐやらなければならないということではなく、今後10~20年の間に視野に入ってくるものだと思います。
アメリカで小麦にポストハーベスト農薬を添加しているところです。
トカプチ有機農場(60ヘクタール)です。ここの技術はすべて公開します。失敗事例も公開します。