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アグリシステム未来農業研究会講演

『キューバの農業事情』と『未来農業から考える新しい取り組み』&「とかち小麦ヌーヴォー」

アグリシステム専務  伊藤英拓

 

 


「未来農業研究会」を開催することにより、農業が日本の明るい未来を創造して行くような存在になればよいと考えています。

 

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『キューバの農業事情』と『未来農業から考える新しい取り組み』

 

キューバではソビエト連邦が崩壊するまでは農薬や化学肥料を多用するソ連型の大規模農業が行なわれていました。2000年以降、国力がつき生産体制の見直しが行われました。現在では、ほとんどが国営農場として運営されています。

 

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 キューバと言えば国が都市型農業を確立して、自国の食料は有機農業でまかなわれているという印象が強いのですが、率直な感想としては、日本でいう有機農業の概念はキューバにはないと思いました。正確に言うと砂糖などの輸出農産物は国際基準に準じた有機栽培が行なわれています。しかし国内で消費される農産物は街の市場を見ても、オーガニックをうたって価格差をつけているわけではありません。また、安心安全とか高品質を打ち出し、差別化しているわけでもありません。

 

 

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キューバの有機農業は国際的なオーガニックの基準にもとづいて行なわれたものではなく、農薬や化学肥料が輸入できない状況で、いかに自国の資源だけで農業を行っていくかを考え続けた結果、たどり着いた栽培法です。

 

 

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具体的なキューバの栽培法を紹介します。

サトウキビの研究所では農薬を使わない防虫対策として、作物の害虫を、天敵昆虫を使って駆除する方法やカビの発生をおさえるバクテリアについて話を聞きました。これらは生態系のバランスを崩すことにならないのかと聞いたところ、天敵昆虫は害虫を完全に駆除した段階で消滅して行くので問題ないとのことでした。

 

 

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原生林を開拓してできた新規の農場も見学しました。ここでは生物の多様性を維持したまま、虫害のない作物を作っていたことに新鮮な驚きを感じました。農場のまわりにはニームという木が茂っていて、この木の葉を水と併せて撹拌したものを散布して、防虫防除に役立てていました。

 


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作物の苗を作っている農場も見学しました。こちらでもコストをおさえるために、あるものをフルに活用している姿が印象的でした。

 


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このように問題が起こったら、自分達の力で解決しようとする姿勢はキューバの人全体から感じることができました。この点は今の日本人が学ぶべきところではないかと思います。

キューバではムダな投資はしないということを徹底しています。キューバの経済成長が止まった時点からすでにあった機械設備を修理しながら大切に使ってきました。

 

 

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また自国の資源が乏しい中でキューバは医療やバイオテクノロジーなどの技術力で自立を図る方向性を取りました。そのため教育には大変熱心で学習意欲のある学生を国が支援しています。キューバでは教育や医療は基本的に無料です。また医療は日本のような対症療法が中心ではなく、世界的にも先進的な医療技術を蓄えつつ、国内では町内会レベルに配置されるコミュニティドクターによる普段の生活改善による健康サポートが基本にあります。それは日本人と寿命が大差ないなか、医療費は圧倒的に抑えられていることからも明らかです。キューバに受けた感銘は、このように国の政策や活動が資本のためではなく、常に本質的に国民のためになることを行うという思想です。老人は「知恵」子どもは「未来」という言葉もありました。

 

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 今後、TPPにより低価格農産物が大量に輸入されるようになれば、我々は資源をムダに使うことはできなくなってきます。低コストで高品質な農産物を作ることが必要になってくると思います。できるだけ輸入に頼らず、まわりにあるものを有効活用して、自立した農業を確立して、日本の未来の農業を創造して行くことができるのではないかと思います。



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キューバの都市型農業はキューバ国内で消費されることが前提になっています。この点もこれからの日本にとって重要なことです。今の日本では生産、流通、消費の流れが分断されています。この状況では持続可能な活動がむずかしくなります。

今、日本に重要なのは生産地と消費地がお互いに尊重し合って、信頼のある深いつながりを持って、お互いの永続的な活動を支えあっていくということです。これは生産者から見れば、よい農産物を作り続けることであり、消費者からみれば安心安全な食品を買い続けることです。

キューバで学んだことを活かして、アグリシステムで今後どのような取り組みを行なっていきたいかということについて話します。

 

 

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キューバの例からもわかるように、生産と、流通と、消費の流れを一つにして行くことが大事だと思います。それを実現するための第一歩として、今回、新しい取り組みを行うことになりました。それが「とかち小麦ヌーヴォー」という取り組みです。

 

「とかち小麦ヌーヴォー」

 

「とかち小麦ヌーヴォー」は、8月に小麦を収穫・製粉して、すぐにパン屋さんに送り、923日を解禁日として、全国100店舗で小麦ヌーヴォーパンを一斉販売するというイベントです。たくさんの消費者にその年のヌーヴォー小麦を季節感とともに味わっていただきたいということです。

 


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生産地と消費地のつながりが生まれるということも大きな目的のひとつです。一般的に流通している小麦粉から季節感を感じることはできません。十勝で夏から秋にかけて収穫される小麦を、季節感を残したまま製粉して、みんなに楽しんでもらおうというイベントです。

 

 

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 「小麦は農産物です。」

 

国産小麦のパンという認識は一般の消費者にはほとんどありませんでした。日本のパン用小麦粉はほとんどが外国産麦から作られたものであり、国産麦の60%は外国産麦に混ぜて使用されているというのが現実でした。いつでもどこでも同じ品質の小麦粉が手に入り、いつもと品質が違うとクレームが出るという状況です。

小麦は農産物であり、年によって品質が変わりますし、生産者によっても品質が変わります。単純に良し悪しでは語れない所に魅力があります。こういうところを消費者に感じてもらいたいと思います。小麦の生産地を、農作物としての小麦を、感じてもらいたいと思います。こういうことにより生産地と消費地のつながりが強くなっていくのではないかと思います。こういうことが「とかち小麦ヌーヴォー」の目的です。

ヌーヴォー小麦と普通の小麦の味の違いは消費者に理解されないのではないかという意見をいただきました。この点に関し、あるベーカリーシェフのご意見をうかがったところ次のような回答をいただきました。

・外国産小麦でも1年を通じて見ると品質に差が出る。特にロットの終りの方では品質が落ちる。やはり新物は美味しい。

・小麦粉は「エイジング」といって2か月ねかせるのが一般的だが、これは製造側の都合によるものであり、本来は蕎麦と同様に挽きたての方が風味、味ともに良いパンが出来る。

 

ヌーヴォーパン以外にもいろいろな企画を用意しています。

 

4月から小麦の作況情報をFBHPを通じて配信します。

5月から生産者の畑の様子、コメント、作況状況をPOPにして参加されるパン屋さんに配布します。

8月に十勝小麦ツアーを行ないます。今年はパン屋さんが対象ですが、来年以降は一般の消費者にも参加してもらいます。

923日に十勝で小麦ヌーヴォー解禁まつりを行ないます。

928日に東京で小麦ヌーヴォー解禁まつりを行ないます。

 

 

 

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生産者にはパン屋さんや消費者とつながって、より品質の良い小麦を作ってもらいたいと思います。そのことにより、TPPに影響を受けない、安定した顧客を持つことができると思います。

消費者にはもっともっと生産地や生産者のことを知ってもらい、深くつながっていってほしいです。そしてそこから生まれる信頼の下に国産農産物を支持してほしいと思います。このことにより継続的に安心安全な食が確保されるのではないかと思います。

パン屋さんには生産者と消費者の懸け橋となってもらって、両者をつないで行く存在になってほしいと思います。そしてこのような取り組みを行うことで経営上の差別化にもつながるのではないかと思います。

アグリシステムとしては、農業が日本の未来を切り開くと考え、こうした取り組みを続けて行くことにより、生産者と消費者の距離を縮めて行きたいと考えています。