1. 土の役割
土には「養分や水分を作物に供給する」「作物を支える」働きと、「土壌微生物の住処」としての役割があります。作物と土壌微生物との間には密接な関係があり、「土が肥えている」という意味には、肥料面での肥沃な土という意味と、土壌微生物の種類と量が豊富と言う意味もあります。良い土とは作物が養分や水を欲しいときに欲しい量を与える働きを持った土です。
2. 土の構造・団粒構造
土は物理的に見ると三つの要素から構成されています。それぞれを固相、液相、気相といい、土の三相と呼ばれています。
固相には鉱物などと落ち葉や動物の糞などの有機物に加え、生きている土壌生物や微生物も含まれます。固相には様々な養分が保持されおり、植物はこの養分を成長に利用しています。しかし、植物が根から養分を吸収するためには、適度な水(液相)・空気(気相)も必要です。大雨の後にも水が停滞しない排水性・旱魃のときにも根に水分を与えるための保水性・根に十分な空気を送り込む通気性を同時に実現するため、三相のバランスが重要です。三相のバランスは固相:液相:気相=4:3:3が理想と言われおり、森の土はこのバランスを保っています。
森に入り落ち葉の積もった下の土を観察してみると、土が小さな塊からつくられていることに気がつきます。この塊を顕微鏡で見るともっと小さな土壌粒子が結合して一つの塊が構成されており、こういった構造を土の「団粒構造」と呼びます。土壌粒子の結合間、さらにその塊の結合間には多くの隙間があり、このような隙間が通気性・排水性・保水性をもたらしています。
団粒構造がつくられる仕組みは、微生物が有機物などを分解する時に出す分泌物やミミズの糞などには粘性物質が含まれており、それらが接着剤となって団粒構造が発達するといわれています。つまり、土壌に微生物・ミミズなどが多く存在し、それらが活発に活動できる環境が整うと、土の団粒化はすすみます。
団粒構造はそれほど丈夫な構造物ではなく壊れやすいものです。また、一旦壊れたものを再生することが難しいものでもあります。もっともわかりやすい例が砂漠化した土地の土です。砂漠化した土は、ほとんど鉱物からなる固相で構成され、液相・気相の割合が小さくなっています。非常に乾燥しており、土壌粒子同士の結合も無くなり風が吹くと容易に運ばれてしまいます。日本でも毎年春先に偏西風に乗って中国から黄砂が飛んでくるという問題があります。こうなってしまった土では、砂漠化を食い止め緑の土地を再生することは非常に困難です。
そして、現在の多くの畑も団粒構造が破壊されてしまい、危機的な状態にあります。その原因は、プラウによる耕起とロータリーハローによる砕土、そしてトラクターなどの大型作業機械による踏圧で団粒構造は破壊され踏み固められてしまうことが大きな要因です。そのうえ化学肥料や農薬の大量に散布によって、土に棲むミミズや微生物などを殺してしまいます。特に除草剤や土壌病害防止のための土壌消毒の影響は甚大です。こういった土で団粒構造を再生させることは非常に難しくなっています。
「団粒構造」をつくり維持していくことが土づくりの基本です。
3. 農業生産にとっての「土」
先ほど「森の土」は理想的なバランスが保たれており団粒構造になっていると述べましたが、自然環境で植物が生育することと、農業生産として作物が生育することを較べると、土に求められる役割も大きく変わります。農業という経済行為の中では、単位面積あたりからの生産量または収益を高めることが目的となり、高品質な農産物を効率よく生産することが求められます。
植物は太陽光エネルギーを利用して光合成を行い有機物の合成をしていますが、その利用効率は実際には1%以下といわれています。植物の葉緑体はすべての太陽光エネルギーを利用することはできません。
太陽光エネルギーの利用効率を高めるためには、植物が利用できない太陽光エネルギーを利用可能な光合成細菌の力を借りることや、すでに有機物として固定された動植物の残渣などを有機エネルギーとして間接的に利用する技術が必要です。
また、農薬や化学肥料に頼る近代農業は環境汚染の大きな原因となっています。病害虫対策として使用される農薬は、無害又は有益な生物でもすべて殺してしまいます。また、必要以上の化学肥料の施用によって地下水への硝酸態窒素の流亡による環境基準値を超える水質汚染、家畜や水田から発生するメタンガスは温室効果への影響が大きいです。さらに、原油の高騰、リン酸肥料を中心とした資源の枯渇と高騰も含め、近代農業は持続不可能な技術です。地球環境保全のためにも、持続可能な農業生産に転換する必要があり、微生物の利用以外に解決の道は無いといえます。
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